第四章 氷と炎の彼岸 ◆ 西海の風浪は塩辛い水気を巻き込み、帆船を押して波を切り裂き、一路西へ進んだ。 ふう―― 海風が帆をいっぱいに膨らませ、ぱたぱたと音を鳴らした。 猫羽おかゆは甲板に立ち、ギターを抱えて、前方に徐々に浮かび上がる二つの島の輪郭を見つめていた。 そして、彼女は言葉を失った。 「……それ、気のせい?」 目をこすった。 前方の海面上に、気質が正反対の二つの島が横たわっていた。 南側―― 赤褐色の岩肌がむき出しで、地表から熱気がもうもうと立ち上っている。海風が吹いても灼熱の温度を帯びていた。遠くから見ると、まるで海面に伏して居眠りする炎の巨獣のようだ。 北側―― 年中寒霜に覆われ、氷雪が岩を覆い、寒風が唸りを上げている。一面真っ白で、光さえも凍りついたかのようだった。 「南が熱くて北が寒いって……」猫羽おかゆはつぶやいた。「極端すぎるでしょ?」 マーリンが彼女の隣に立っていた。ピンク色のショートカットが海風になびいている。 「フリギア島と羽調島だ」彼は説明した。「二つの島はくっついているが、気候は天と地ほど違う――まるで二つの極端な世界が無理やり同じ海域に貼り付けられたみたいだ」 「そして二つの島の境界、中心地帯――」 彼の紫の瞳が遠くを見つめ、視線が鋭くなった。 「上古の符文に記された、音楽神が遺した聖物・彼岸花の眠りの場所だ」 「暑さと寒さ、炎と氷。極端に相反する気配が二つの島の中心で交差し、ぶつかり合う――奇妙で神秘的な特殊空間を形成している。そしてこの極致の天地の衝突こそが、音楽神の純粋な神力を保ち、唯一無二の彼岸の聖物を育んだのだ」 猫羽おかゆは聞き入っていた。 なるほど。 氷と炎の境界に、この大陸を救う鍵が眠っているのだ。 時雨は船舱口に縮こまり、猫耳は海風でぺしゃんこになり、尾は足をぎゅっと巻いていた。 「さ、寒いのに暑い……」彼女は震えた。「この場所おかしいよ……」 芙寧蝶は船首に立ち、銀白の騎士軽鎧は海風の中でもびくともしない。 目付きは鋭く、前方の海面を警戒しながら見渡している。 彼女は護衛隊長だ。 それが彼女の務め。 船はゆっくりと南側の海岸線に近づいた。 フリギア島の浅瀬の岩の傍にしっかりと停泊した。 ◆ 猫羽おかゆ、芙寧蝶、マーリン、時雨の四人が次々に島へ降り立った。 足が岩に触れた瞬間―― 「暑っ!!!」 猫羽おかゆは飛び跳ねそうになった。 熱い波が顔に当たり、瞬時に全身を包み込んだ。熱い地表が靴底から灼熱の触感を伝え、空気は地熱で炙られて微かに歪んでいた。 視界の赤い山石は暗い赤い光を放っている。 空気にはうっすらと硫黄の匂いが漂っている――吸うと喉が乾いてくる。 「すごい暑い……」猫羽おかゆは手で風を仰ぎ、額にはすぐに細かい汗が滲んできた。 王室特製の軽量戦衣は通気性が良くて軽いとはいえ、この火山島の極端な高温は防ぎきれなかった。 時雨の猫耳は完全に垂れ下がり、猫全体がオーブンに入れられたようだった。 マーリンは手で眩しい日光を遮り、連なる火山岩を見渡し、警戒した表情になった。 「フリギア島は活火山の体系のようだ。地熱が活発で、岩層が緩い――」 彼は間を置き、口調が真面目になった。 「ルートを偵察してくる。お前らはちょっと休んでろ」 彼は高くそびえる火山の主峰を見上げた。ピンク色のショートカットが熱風で微かに揺れていた。 周囲に静かに微弱な感知屏障が広がっていった。 「ここは気候が異常だし、聖物も存在している。音魇が出るかもしれないから気をつけろ」 说完―― マーリンの姿は残る三人の視界から素早く消えた。 風のように速かった。 時雨は小さく頷き、随身の荷物をしっかり締めた。 「ちょっと休憩しよう」彼女は優しく言った。「火山を越えるには体力がいるから――食事を用意して、力を付けてから出発しよう」 ◆ 三人は風を避けることのできる岩陰の空間に落ち着いた。 旅の疲れをちょっと下ろし、休息と補給の準備をする。 その一方で―― 北側の羽調霜島。 荒涼とした凍土の上に、寒風が刃のように吹いている。 絶え間なく唸りを上げながら行き交い、細かい氷雪の粒を巻き上げている。 「ざわざわ――ざわざわ――」 黒石の凍土に当たり、冷たい音を響かせている。 島中には緑が一点もない。 生き物の姿もない。 死寂、冷たさ、荒涼。 風の気配でさえ絶望的な寒さが滲んでいた。 南側のフリギア島の暑さと喧騒とは、極端な対照をなしていた。 拾玥は一人で漫天の寒風の中に立っていた。 広くて重い黒袍が体全体を完全に包み込み、フードが目元を厳しく隠し、白い顎先だけを出していた。 傍には三人の黙って無表情な底辺の巫師が従っていた。 みな黒袍に身を包み、頭を下げて立っていた。 魂のない傀儡のように。 静かに偵察の命令を待っている。 拾玥は首領から二つの島の先行偵察、聖物の位置と島の地形を把握する任務を与えられていた。 心底に残った良知は完全に消えてはいなかったが―― すでに「新世界を創り、世の中の苦しみを終わらせる」という執念に層々と抑え込まれていた。 聖物奪取の使命に反発することはもうなかった。 ただ漠然とした不安が心に残っているだけだった。 冷たい風が黑袍の衣料を貫き、四肢百骸に滲み込んでくる。 拾玥はゆっくりと凍土の中を歩いた。 靴底が薄い氷を踏みしめる。 「バリッ――」 澄んだ砕ける音が響いた。 羽調島の大地は硬くて冷たく、氷層の下には黒い古岩がむき出しで、至る所に歳月が積み重なった荒涼と寂しさが滲んでいた。 少し歩いた後。 彼の足が突然止まった。 視界に入った凍土の上に―― 無数の凍りついた骸骨が横たわっていた。 骸骨は層層と重なり、氷雪と凍土に半分埋もれていた。 細身の体型の者は普通の平民。 骨格が広く、鎧の摩耗痕が残っている者は――過去の騎士や探検者に違いない。 長い歳月の中で、氷雪がそれらを完全に封じ込め、硬くきれいなまま凍らせていた。 だが同時に、この死寂の大地に、さらに陰気な死の気配を加えていた。 「……」 拾玥は黙った。 無数の先人が、この島に足を踏み入れた。 そして全員がここで果てた。 最終的に凍土の中の白い骨となった。 刺さるような寒さはもはや体表にとどまらなかった―― 視線を通して心底に渗入り、拾玥の心底に突然強い不安が湧き上がった。 なんと千百年前から、無数の人が宝を探してこの地にやってきたのだ。 だが例外なく、全員がここで果てた。 骨すらこの苦寒の絶地を離れることができなかった。 この二つの島の境界の地は、古書に記されたよりもはるかに危険で恐ろしい。 隠された危機は、勝手に闯入するすべての生き物を飲み込むのに十分だった。 拾玥は遍地の凍った骨を見下ろし、袖の中の指先が微かに締まった。 心底で鎮められたばかりの迷いが、また静かに波紋を立て始めた。 無数の先人の犠牲――聖物争奪の残酷さを無言で証明していた。 そして彼にはっきりと分からせた―― この聖物の争いは、必ず果てない殺戮と消亡を伴うのだ、と。 彼はしばらく黙った。 心底の混乱を押し殺し、低い声で傍の巫師に命じた。 島の地形と音律の波動を引き続き偵察するよう。 聖物の位置を把握した後―― ただ静かにあの御方が到着するのを待てばいい。 機を狙って聖物を奪う。 南北の二つの島、暑さと寒さ、明と暗。 騎士団の一行は鋭意待发し、 巫師団は偵察と潜伏。 彼岸の聖物をめぐる駆け引きが―― すでに静かに幕を開けていた。 ◆ 視点は暑いフリギア火山島へ戻る。 岩陰の空間の上で。 「コトコト――」 時雨は手際よく簡易調理器具を組み立てた。 高温の環境の中で、彼女は手際よくレタスを出し、適切な大きさにちぎった。 そして人参、トマト、アボカドを取り出した。 「トントン――」 スライスし、つぶし、皿に入れる。 最後にレモンを取り出して―― 「しゅっ」 数滴のレモン汁を絞り入れた。 完成! 「時雨特製サラダ完成で――す!」 時雨は嬉しそうに猫耳と猫尾をぴくぴくさせた。 目の前の大きくて色鮮やかなサラダが、旅の疲れと高温によるイライラを少し和らげた。 芙寧蝶は周囲を警戒している。 目付きは始終周囲の赤い岩体を見渡し、少しの油断もない。 猫羽おかゆは傍らに座り、指先でギターの琴弦を軽く弾いている。 「チンチンチン――」 プリムラ先生に教わった音律のテクニックを復習し、自身の力を固めている。 しばらくして―― マーリンが戻ってきた。 顔の表情には无奈さが滲んでいた。 「状況は良くない、みんな」 彼はため息をついた。 「山体を偵察してきた――基本的に山の上に一本しかまともに歩ける道がなくて、迂回するのはほぼ無理だ」 やはりこの火山を登るしかないようだ。 たとえ極めて危険だとしても。 「大丈夫大丈夫、まずご飯食べようよマーリンさん」時雨は急いでマーリンに食事を勧めた。 「おやおや――」 マーリンの顔の表情が曇りから晴れへ、一気に明るくなった。 「時雨ちゃんの料理だ!お腹ペコペコだったよ。こんなに頑張ったご褒美がもらえるなんて~」 彼は嬉しそうに皿を持ち上げた。 そして―― 「……ちょっと待て」 マーリンは皿の中のものを見て、嘴角が微かにひきつった。 「なんで俺の皿だけ人参とトマトが多いんだよ?」 彼は傍で何もなかったかのように口笛を吹いている猫羽おかゆを見た。 「あ、あたしじゃないからね」猫羽おかゆは後ろめたくして顔を横に向けた。 「じゃあなんでおかゆちゃんの皿には全然入ってないのさ!」 「そんな好き嫌いしちゃダメよ、猫羽さん」芙寧蝶はサラダを食べながら諭した。口調は平静だが、反論できない真面目さが滲んでいた。「栄養バランスを考えてください」 「ううっ……」猫羽おかゆはしょんぼりした。 数人が言い合っていると―― 岩の傍から突然奇妙な音が聞こえてきた。 「ざわざわ――しぃしぃ――」 鋭くて細かい音で、魔物特有の濁った音律を帯びて、短暂的な静寂を破った。 衆は瞬間に警戒した。 音の方を見ると―― 赤い岩の割れ目から、数体の小さな姿が突然飛び出した! 小型の猟犬に似ていて、四肢は細く、体全体は焦げた黒い岩石の硬い鎧で覆われている。毛皮は火山灰の暗い色を帯び、瞳は濁った暗赤色に光っている。 体型は小さいが、速度は極めて速い。 この火山島固有の小型音魇だ。 音魇の群落が落ちた瞬間、体を緊張させ、数人に向かって凶悪に吠えた。 「しぃおぉ――!」 周囲に微弱な負の音波が漂い、極めて攻撃的な敵意を帯びていた。 芙寧蝶が動いた。 手首を軽く持ち上げ、トランペットを構えた。すでに人を守る準備ができている。長年の護衛の本能が、最初に脅威を一掃しようとした。 だが次の瞬間―― マーリンが軽く手を上げ、しっかりと彼女の動きを止めた。 「待て」 口調は平淡で、紫の瞳は数体の小型音魇に注がれ、眼底には考察の気配があった。 「これらの音魇は実力が弱い――おかゆちゃんの訓練にちょうどいい」 「おかゆちゃんは一週間の特訓で音律化武の基本テクニックを習得した。ちょうどこれを機に実戦で磨合し、臨機応変の能力を鍛えろ」 芙寧蝶は理にかなっていると思い、小さく頷いた。 動きを引っこめ、横に警戒の姿勢をとった。 戦場を完全に猫羽おかゆに任せた。 ただ傍でいつでも待機し、予期せぬ事態に備えるだけだ。 猫羽おかゆはそれを聞いて、眼底に一抹の固さが走った。 大きく息を吸った。 雑念を捨てた。 怀中のギターをしっかりと構え、指先は正確に琴弦の上に置かれた。 日々特訓の光景が頭の中で素早く駆け巡った―― プリムラの声が耳に響く。「心音合一」 心と楽器が瞬時に共鳴した。 次の瞬間―― 澄んで鋭いメロディが突然迸った! 淡い金色の音律の光が琴弦に絡まり、薄くて鋭い音刃に凝縮された。 彼女は力の加減を正確にコントロールし、過度に爆発させなかった。 五声音階だけを使って音律の力を凝縮し、音魇の弱点を直接攻撃した。 「シュシュシュッ――!」 細かい音刃が空を切り裂いた。 小型音魇の体に正確に命中した。 魔物は短く悲鳴を上げた―― 「おぉう――」 周囲の濁った負の音波は瞬時に崩れ散り、硬い岩石の鎧は音律の力によって撃破された。 体は重く地面に倒れ込んだ。 数回もがいた後―― 完全に細かい黒い霧となって空中に消散した。 勢いに乗って追撃! 猫羽おかゆは再び美しいメロディを奏で、数本の音律の刃が残り音魇に向かって飛んでいった。 一撃必殺。 手際よく明快。 少しの迷いもなかった。 「よくできた」 マーリンは小さく頷き、目には満ちたる称賛が込められていた。 「心が安定していて、力のコントロールも正確――一週間の特訓は無駄じゃなかった。おかゆちゃんの学習能力は想像以上だ」 猫羽おかゆはほっとして、嘴角に浅い笑みを浮かべた。 実戦の成功が、彼女自身の力に対する自信をさらに確かなものにした。 しかし―― 「でもトマトを全部俺に押し付けるな!俺だってこんなに食べたくないんだ!」 マーリンはフォークを挙げて抗議した。 「えへへ……」 そして―― 二人はトマトの投げ合いを始めた。 「ぱしっ!」 「トマトくらえ!」 「おかゆちゃんひどい!食らえ!」 「二人ともやめなさい!」 怒声が、まるで晴天の霹靂のように響いた。 「食べ物を粗末にしちゃダメ!二人ともちゃんと食べなさい!」 芙寧蝶が岩を叩いた。 「ドン!」 二人は瞬時に固まった。 トマトが宙に浮かんだ。 そして―― おとなしく座り直して、皿のサラダを食べ始めた。 マーリンの皿のトマトは猫羽おかゆの皿より何倍も多かったのに。 二人が言うことを聞いて、芙寧蝶は満足そうに頷いた。 「……こわっ」猫羽おかゆは小声でつぶやいた。 「確かに」マーリンも同意した。 ◆ 四人は集まって、簡単に食事を済ませた。 短い休息の後―― 立ち上がって荷物を整理し、火山を越える準備をしようとした。 その時―― 火山島全体の地面が突然微かに震えた。 激しい揺れではなかった。 深く、低周波で、絶え間ない地底の轟音だった。 「ブォン――ブォン――ブォン――」 火山主峰の地心からゆっくりと伝わってきた。 大地固有の重々しい音律だった。 低く、重厚。 強い圧迫感を伴い、岩層や空気を通して層層と広がり、 人の心臓が息苦しくなり、呼吸が滞った。 普通の火山の鳴動は爆発的な轟音だ。 だが今の音は―― 絶え間ない低い唸りだった。 まるで眠っていた太古の巨獣がゆっくりと目を覚ますようだった。 生まれつきの威嚇力を伴い、天地全体を圧し潰していた。 マーリンの表情は瞬時に大きく変わった。 元々リラックスしていた目元が急に引き締まり、紫の瞳が瞬時に収縮し、周囲の感知屏障を全力で展開した。 チームの偵察感知の主力として、彼は天地の音律と異動に対する敏感度が常人を遥かに超えている。 此刻火山の奥深くから伝わってくる奇妙な音は―― 普通の地質活動が出せるものではなかった。 中には濃厚な怨念と暗黒の気配が込められていた。 上位音魇が目覚める前兆だ! 「全員ただちに警戒!全員戦闘態勢!」 マーリンが厳しく低く叫んだ。 口調はかつてない重さだった。 暑い空気が瞬時に凝り固まった。 熱い風が急に止んだ。 火山島全体の高温が瞬時に沈殿したようだった。 残るのは果てない圧迫感と窒息感だけ。 灼熱の火山の奥にいても、マーリンの額には―― 細かい汗が滲んでいた。 ◆ 「ゴゴォン――!!!」 耳をつんざくような大音響が突然炸裂した! 高くそびえる火山の主峰が轰然と裂けた! 赤い岩層が砕けて転がり落ち、もうもうと立ち上る濃煙が火山灰を伴って天へ突き上げた。 熱いマグマが巨大な割れ目からぐつぐつと湧き出し、流れている。 「ジュージュー――」 一体の巨大な影が、火山の地心からゆっくりと這い出してきた。 小山半分の体型を持つ巨大な溶岩音魇だった。 体は固まった赤い岩の塊が積み重なってできており、体表には縦横に裂け目が走っている。熱いマグマが裂け目からゆっくりと流れ、脈打つ赤い血管のようだった。 周囲には熊熊と燃える炎が漂っている。 一吋一吋の躯体が天を焦がすほどの高温を放っていた。 明確な顔はなかった。 頭頂部に二つの赤く跳ねる火の塊が燃えており、目の代わりをしていた。 暴戾で血を好む凶光を放っていた。 太い四肢が踏み落とすたび、熱いマグマが四方に飛び散った。 硬い岩地は瞬時に深い凹みに灼きつけられた。 極致の暗黒怨念と火山の炎が一つに溶け合い、 狂暴な音律が四方を震わせ、 人がほとんど立てないほどに圧し潰していた。 「上位溶岩音魇だ!」 芙寧蝶が厳しく警告した。 「時雨さんと猫羽さんはすぐに下がってください!できるだけ遠くへ!」 彼女は瞬時に腰のトランペットを抜き取った。 音律の力がトランペットに纏わりつき、厳戒態勢に入った。 誰もこの巨獣の力を軽視できなかった。 三人はすぐに位置につき、攻防の陣形を組んだ。 猫羽おかゆはギターを握り、力を溜めている。 マーリンは全体の感知を掌握し、音魇の弱点を捉える。 芙寧蝶は正面からの対抗を準備している。 極めて危険な苦戦が―― 突然始まった。 ◆ 炎が荒れ狂う。 マグマが飛び散る。 狂暴な音波の衝撃が次々と起きる。 巨大な溶岩音魇が爪を振るうたび、足を踏み出すたび、天地を破壊するほどの力を伴っていた。 熱い炎と衝撃音波が三人の防衛線を絶え間なく圧迫している。 猫羽おかゆは絶えず移動して回避し―― そして隙を捉えて音刃を弾いた。 「ブォン――」 音刃が音魇の岩石の外殻にぶつかった―― 埃一つ動かすことができなかった。 「効かない!外殻が硬すぎる!」 芙寧蝶はトランペットを吹き鳴らした。 「変ホ長調トランペット協奏曲――」 「ウォォォ――!!!」 青い音波が爆射し出た。 なんと眼前の巨獣の狂暴な一撃を挡住した! 二つの力の衝突でマグマが四方に飛び散った。 「ジュッ――!」 そしてマーリンは―― 此刻白い閃光となって、巨獣の周囲を駆け巡った。 絶えず衝撃波を避けながら、 時々マントの下から取り出した箫で、巨獣の様々な位置を試すように攻撃した。 要害を見つけようとしている。 「シュッ――」 「ドン――」 箫の音は雨のように音魇の上に降り注いだが、すべて厚い岩石の鎧によって弾き返された。 「くそ、こいつの弱点は一体どこだ……」 突然―― マーリンの一度の攻撃の後。 巨獣の動きにほとんど気づかれないほどの遅れが生じた。 他の者なら異変に気づかなかったかもしれない。 だが彼は偵察小隊隊長だ。 花の演奏家――マーリン。 「見つけた!」 マーリンの紫の瞳が瞬時に輝いた。 「こいつの急所は右後脚だ!」 彼は猫羽おかゆに向かって大声で叫んだ。 「蝶、俺がチャンスを作る!お前はこの奴のバランスを崩してくれ!」 「猫羽さん――この奴がバランスを崩した隙に、右後脚の中心に最強の一撃を頼む!」 「分かった!」猫羽おかゆはギターを握りしめた。 「葬花吟!」 マーリンは音魇の急所に向かって一撃を吹きつけた。 箫の音は散りゆく花のように美しく、音魇の瞬時の遅れを引き起こした。 そして―― 彼は最速の速度で地面を蹴り、音魇の目のように見える部分へ向かって突進した! 「落桜無痕!」 二本の音刃が音魇の両目へ向かって攻め込んだ! 「おぉう――!!」 音魇は怒りの咆哮を上げた。視界を失ったその瞬間―― 「三重絶影!」 芙寧蝶は三吐法を使い、一瞬で三道の重音を叩き込んだ! 音魇の頭を激しく叩いた! 「ドン!ドン!ドン!」 音魇は四方に響き渡る怒りの咆哮を上げ、バランスを失った! 今だ! 音魇の右後方―― 一人の少女が現れた。 ピックが琴弦の上を素早く舞った。 「タタタタタタタタ――!」 身の毛のよだつほど速い高音を連ねた! 最後のチョーキングが頂点に達すると―― ギターが岩石を粉砕するほどの歪んだ咆哮を炸裂させた! 肉眼で確認できる金色の音波の刃が、眩い青い電弧を伴い―― ネックの方向に轰然と射出された! 「ゴォン!!!」 沿途の地面が焦げた溝をえぐられた! そして―― 音魇の急所に轰然と命中した! 溶岩音魇の右後脚が崩れ始めた―― 「バリッ――バリバリッ――」 裂け目が躯体を伝って全身に蔓延した。 最終的に耐えきれず―― 巨大な躯体が砕け散り始めた。 「ゴロゴロ――」 もうもうと立ち上る濃煙。 ◆ 硝煙が徐々に晴れた。 熱い空気が少し和らいだ。 衆はみな息を切らし、火山灰と細かい岩屑にまみれていた。 心身ともに疲れ果てていた。 張り詰めていた神経がようやく少し緩んだ。 猫羽おかゆは地面に座り込み、ギターが膝の上に横たわり、両手はまだ微かに震えていた。 だが嘴角には笑みが浮かんでいた。 ――やった。 四人の協力だ。勝ったんだ。 「だが……」 マーリンは息を切らしながら、火山主峰の方を見た。 「この島にこんなに強い音魇が存在するってことは――」 彼の紫の瞳に一丝の憂慮が走った。 「中心地区には……何がいるんだ?」 ◆ 溶岩音魇が砕けた岩屑がまだ完全に落ちていない。 猫羽おかゆ四人は少しの猶予も許されず、 境界地帯へ全力で走った。 足元は灼熱の赤い岩地。 地表の割れ目から灼熱の熱気が噴き出し、火山灰を伴って顔に当たり、頬が痛かった。 猫羽おかゆはギターを抱えて芙寧蝶の脇に続き、長髪は熱風で後ろに激しくなびいた。 指先は琴弦をきつく握っていた。 呼吸が徐々に激しくなっても、足取りは少しも緩めなかった。 マーリンは轻やかな足取りで脇を走り続けた。 ピンク色のショートカットは熱波で微かにカールしていたが、始終感知を全開にして周囲の動静に注意を払っていた。 そして最後に残る時雨は―― 顔はすでに不自然な紅色を帯びていた。 額には細かい汗がびっしり。 足取りはますます重くなり、胸は激しく起伏していた。 一回の呼吸ごとに灼熱の痛みを伴っていた。 彼女はもともと料理と楽器の修理だけが得意な普通の人間だった―― 戦闘や長距離走の特訓など受けたことがない。 此刻すでに体力が限界に達していた。 もはや三人の速度についていけなくなっていた。 「時雨、そこで止まって!」 芙寧蝶が最初に振り返り、眉をひそめてよろめく少女を見た。 口調には揺るぎない決意が込められていた。 「前が二つの島の境界だ。未知の危険が多すぎる。隠れられる岩の割れ目を見つけて隠れて。体力を回復して、私たちの連絡を待ってて」 猫羽おかゆも急いで足を止めた。 手を伸ばしてよろめく時雨を支え、目には満ちたる心配が込められていた。 「時雨、ここで待ってて。勝手に行かないでね――聖物を取ったらすぐ戻るから」 マーリンも動作を止めた。 紫の瞳が周囲を掃き、一時的に魔物の気配がないことを確認した。 優しく慰めた。「大丈夫、すぐに片付ける。安全なところにいて」 時雨は背包のベルトをきつく握った。 三人の疲れているが決意に満ちた表情を見て、心には罪悪感と無力感でいっぱいだった。 だが此刻自分が行けば足手まといにしかならないことも分かっていた。 力強く頷くしかない。声は震えていた。 「みんな……気をつけて」 簡単に言い置いて。 三人は再び動き出し、境界地帯へ疾走した。 時雨は一人で岩の割れ目に残された。 猫耳を垂らし、三人の遠ざかる背中を見つめていた。 「おかゆちゃん……頑張って」 彼女は小声で言った。 ◆ 前へ進むにつれて―― 空気中の暑さがさらに濃くなった。 だが同時に―― 微かな冷気が前方から徐々に滲んできていた。 暑さと寒さの二つの気配。 空気中で静かに交差し、 奇妙な霧を形成していた。 「うっ……」猫羽おかゆは腕をこすった。「急に寒くなってきた」 突然―― マーリンの足がピタリと止まった。 元々張り詰めていた神経がさらに緊張した。 紫の瞳が細められた。 周囲の感知音律が細かな網のように前方へ急速に広がっていった。 「おかしい」 声を低くして、重々しい口調で。 「前方に未知の気配――四つだ」 「他の者も聖物の情報を先に掴んでいたようだ。おそらく――巫師団の者たちだろう」 「戦闘準備を」 芙寧蝶は瞬時に警戒した。 右手は腰のトランペットに当てられている。 銀白の騎士音律が周囲に静かに流れ、目付きは刃のように鋭かった。 「前方で激しい戦闘になるかもしれない」 三人は前進を続けた。 最後の溶岩地帯を抜けると、 向かいから来る寒風が急に鋭くなった。 刺さる冷気が瞬時に周囲の暑さを払いのけた。 地面も赤い岩地から、薄い氷に覆われた凍土へと変わっていった。 寒暖が交互に変わる風が耳を掠めた。 「うぅ――うぅ――」 霧はますます濃くなり、視界がぼやけていた。 その時―― マーリンの瞳が微かに収縮した。 感知した気配の中に―― 極めて広大で、純粋で温和な力が現れた。 その力は浩瀚で落ち着いていた。 まるで眠る神が、境界地帯の中心に静かに陣取っているようだった。 霧の向こうでも―― はっきりと畏敬すべき音律の力を感じ取れた。 「これは……」 マーリンは心が震え、心の中で呟いた。 「聖物の気配か?」 彼が言うまでもなく。 芙寧蝶もすでに感知し、眉を少し上げ、目に一丝の確信が走った。 「中心地帯に極めて強い力がうごめいている――間違いない」 そして猫羽おかゆの感触が最も鮮明だった。 漠然とした暖かさが心底からゆっくりと立ち上り、 その広大な力と遥かに呼応しているようだった。 まるで血脉の中の何かが目覚めさせられたようだ。 指先の琴弦さえ微かに震えていた。 誰に指摘されるまでもなく―― すでに確信していた。 それが彼らが必死に探していた―― 音楽神の聖物だと。 三人は同時に速度を上げ、 その力の源に向かって大きく歩を進めた。 ◆ 此刻。 二つの島の境界の中心地帯。 拾玥はすでに三名の巫師団のメンバーを連れて、音もなくこの地に到着していた。 凍土を抜け、羽調島のうろつく音魇をすべて迂回し、 一足先に聖物の前に立っていた。 霧の中で―― 二本の花が寄り添って静かに立っていた。 一本は氷を纏い、幽青い冷光を放っている。 一本は微かな炎を宿し、赤い暖かさに包まれている。 氷と炎の気配が完璧に溶け合っていた。 広大で純粋な音律の力が思うままに満ちていた。 遠くに立っているだけで―― 心を動かすほどの力を感じ取れた。 拾玥は眼前の双生の彼岸花を見つめ、黑袍の下の指先が微かに締まった。 心は満ちたる震撼だった。 「これが聖物……」 彼は小さく呟いた。 「近づくだけでこれほど強い音律の力を感じられる――难怪首領でさえも、これを恐れるわけだ」 彼は少し迷った後、 黒袍の奥から一本の漆黒のマイクを取り出した。 もう一方の手で漆黒の渡鴉を握りしめた。 渡鴉が羽をはためかせ、彼の肩に止まった。 「ガー――」 拾玥はマイクを口元に近づけた。 低く晦渋な音符が喉から溢れ出した。 音律が渡鴉の体を包んだ。 その後手を上げて渡鴉を空中へ放った。 「ふぅ――」 漆黒の渡鴉が翼を広げて高く飛び上がり、数本の幽光を放つ黒い羽を落とした。 そして北方へ向かって高速で飛んでいった。 巫師団への信号だ。 渡鴉が飛び去ったその瞬間―― 三道の影が霧を突き破った! 拾玥の四人と正面で激突した! ◆ 「黒袍姿――やはり巫師団だ」 芙寧蝶の目が冷たくなった。 眼前の四人の黒袍に包まれた者を見渡し、 迷うことなく腰のトランペットを抜き取った。 銀白の音律の気配が瞬時に迸った! 「お前らもここを見つけられたか」 拾玥の心がきゅっと締まった。 すぐにまだ収めていないマイクを前に構え、周囲に紫の音律が静かに力を蓄えていた。 警戒しながら眼前の三人を睨んだ。 「マイクで戦う奴らとは、実に面白い」 マーリンが一歩前に踏み出した。 普段は遊び心のある紫の瞳は、此刻は冷たく淡泊だった。 口調には距離感が滲んでいた。 「惜しいな――それほど稀有な力を、悪事に使うとはな」 「惜しくないのか?」 その言葉が終わった瞬間―― マーリンの姿が突然消えた! 林を掠める一陣の清風のようだった。 水面を滑る一枚の竹の葉のようだった。 「梨花・掠影――」 次の瞬間―― 四人の黒袍人の眼前に梨花の花びらが一面に舞い、視界を遮った。 マーリンはすでに四人の黒袍人の間の隙間を高速で通り抜けていた! 手首を軽くひねると―― マントの下に隠れていた長い箫が優雅で鋭い軌跡を描いた。 箫の尾が細かい音律を伴い、背後の三名の巫師団の体に正確に掃きかかった。 「シュシュシュッ――」 瞬時のうちに。 軽やかな音律の震動が空気中に消え去った。 三名の巫師団のメンバーは―― 反応する暇すらなく、 袍に隠していた楽器を取り出すこともできず―― 一斉にうめき声を上げ、足がふらついて倒れ込んだ。 体に淡い血の痕が滲み出ていた。 だが急所は外されていた。 ただ瞬時に戦闘能力を失っただけだ。 一連の動作は水の流れのようにスムーズだった。 残影しか残らないほどの速さだった。 風音すら驚かせないほどだった。 「!」 拾玥はその場に固まった。 背中が瞬時に冷汗でびっしょりになった。 背後に立つマーリンを死盯着して、信じられなかった―― 「いつ……」 「いつ仕掛けたんだ!?」 速度は極限に達していた。 隙がなかった。 音律の波動すら感じられなかった。 この速度―― 前に会った怠惰と同等だった! マーリンは目を伏せて長い箫を軽く撫でた。 紫の瞳には少しの波紋もなかった。 口調は平淡だが、揺るぎない強さを帯びていた。 「心配するな、急所は外した」 「ただ、無関係な者が多すぎるとうるさくなるから――」 「お前一人残せば、話を聞くには十分だ」 芙寧蝶が一歩前に出た。 銀白の音律が拾玥を指した。 厳しく問い詰めた。声は冷たかった。 「言え――巫師団がなぜここにいる?」 「お前たちが聖物を奪う目的は何か?」 「そして――お前たちの大本営は一体どこにある?」 長年、騎士団は四方を捜索してきた。 だが巫師団の大本営の手がかりは全く掴めなかった。 この悪党どもを一網打尽にできなかった。 この鬱屈と焦燥が―― 此刻はすべて眼底の冷たさに変わっていた。 だが拾玥はただ唇をきつく結び、マイクを握りしめ、 目は固く、 明らかに一言も漏らす気はない様子だった。 猫羽おかゆは静かに横に立っていた。 勝手に手を出さず、 ただ静かに右手をギターの琴弦に軽く置き、 指先は微かに緊張していた。 目は平静に眼前の拾玥を見つめ、常に突発の危機に備えていた。 最初は未知の状況に対する慌てふためく姿から―― 此刻の落ち着いた警戒へ。 彼女の心境、戦闘意識、臨機応変の能力は―― 確かに急速に成長していた。 そして彼女の視線は―― 眼前の氷炎が交差する彼岸花の上に落ちた。 広大な共鳴感が再び心に湧き上がった。 心の中で静かに呟いた。 「あれが聖物の彼岸花……」 「なんて強い力」 ◆ この剣拔弩張し、空気が極限まで凝り固まった瞬間―― 狂ったような耳障りな笑い声が、突然天を切り裂いた。 「ググガガ――!!!」 黒白の姿が―― 幽霊のように霧の中から飛び出し! 拾玥の脇に落ちた。 黒白のマントが寒暖が交差する風の中で激しく舞っていた。 周囲には窒息しそうなほど濃厚な暗黒の音律が漂っていた。 その男は首を傾げ、 目は狂気に満ちていた。 その場に固まった拾玥を見て、嘴角に不気味な笑みを浮かべ、 口調には茶化した称賛が込められていた。 「よくやったな、坊主――俺を失望させなかったぞ」 「あいつらのゴミ巫師よりは、少しは使い物になるみたいだな」 猫羽おかゆ三人の表情が瞬時に変わった。 来訪者を死盯着した。 この者の暗黒の音律は―― 倒れた巫師や拾玥よりもはるかに狂暴で荒々しかった。 「なぜ……」 マーリンは不自觉地に距離を取った。 額に細かい汗が滲んでいた。 「なぜ俺は彼の気配を探知できなかったんだ?」 その声には隠しようのない重さが込められていた。 「今までこんなことができたのは団長だけだったのに……」 マーリンは芙寧蝶と猫羽おかゆに向かって叫んだ。 「十二分に警戒しろ――こいつらは俺たちとはレベルが違うぞ!」 「ググガガ――!」 眼前の不気味な男は笑った。 「なぜそんな当たり前のことを言うんだ!」 そして彼の胸には―― 漆黒の徽章がつけられていた。 歪んだ嫉妬の紋様が刻まれている。 来訪者は―― 巫師団の七大罪の一人。 嫉妬の罪・空白だった!